◆月刊GAMEJAPAN 2006年12・2007年1月号掲載/『ファントムサウザント』第1回ストーリー

 ここからは、応募規定を元に寄せられたイラスト&ストーリーを掲載します。
 この部分は毎号、連載の進展に従って、更新していく予定です。
イラスト:伊勢屋三泗郎くん
▲魔法王国ラーナフェルトには、双子の王女がいました。妹イアラと姉エリューシス。二人は双子にも関わらず、姉の右肩に魔術の素質の現れである星形のあざがあったため、離れて育てられました。二人の母は低い身分だったため、イアラは城下で庶民に混じり育てられます。イアラは優秀な姉とは違い、魔法学校の成績はさほどではありませんが、級友のリアム(左)、ハイン(中)らに助けられ、日々学んでいました。

イラスト:ちゃくん
▲町の人たちはイアラが王女であることをよく知っていましたが、それ以上に美しい歌声を覚えていました。少しドジですが、垣根を作らず、人に労を惜しまないイアラは、町の人から愛されていたのです。

イラスト:TUKAMIくん
▲イアラは《深緑の賢者》と呼ばれる老魔術師・ヴォルドを師として育ちました。彼女はヴォルドだけでなく、塔に所蔵された魔法剣《クロム・ゲート》の精霊ロダからも多くを学びます。絵は沐浴中のイアラとロダです。

イラスト:キタオカミツルくん
▲そんなある日、イアラが半エルフの侍女メリッサと町に出ると、騒ぎが起こります。遠目にしか見たことがない父・魔法王ガザが魔法で突如国中に布告したのです。内容は「我が後継者は最も強大な魔術師と為す。力の証明に手段は問わない」。この国を震撼させる争乱の始まりでした。

イラスト:大隈達矢くん
▲「力を証明した魔術師を次の魔法王と為す」。魔法王ガザの布告を受け、末の王女イアラは王位を狙う魔術師の襲撃を受けます。  見知った者との戦いを拒むイアラ。彼女を救ったのは、魔法王国の親衛隊に属する《鵙/もずの騎士》。異形の騎士は、王女に「時を惜しみ、師の元に向かえ。時が動き出す、その前に」と告げます。

イラスト:UMEくん
▲しかし、争乱の時代はすでに幕を開けていました。王女イアラの双子の姉・エリューシスが、付き従う同志たちと共にイアラの師である《深緑の賢者》ヴォルドの塔を襲撃し、宝物を奪ったのです。

イラスト:yu1くん
▲イアラがヴォルドの塔にたどり着いた時には、塔内は荒らされ、そして彼女の親代わりでもある老魔術師は深手を負っていました。

イラスト:加乃さん
▲《深緑の賢者》ヴォルドは、涙を浮かべるイアラを慰め、天才を謳われた双子の姉・王女エリューシスが禁呪を奪ったことを告げます。そして、彼女に宝物庫に残っていた《運命を開く鍵/クロム・ゲート》と《精霊を護る牢獄/ルーン・ペアレス》と呼ばれる魔法の剣と鎧を授けたのです。しかし、その間に禁呪が解き放たれ、禍々しい気配が塔を包みました。

イラスト:亜浪くん
▲深手のヴォルドは自分を置いて、イアラにこの塔から脱出するよう命じます。しかしイアラは「師匠はまだ、命があるじゃないですか! 生きているんだから、生き続けてください」と言い、ヴォルドに肩を貸します。少しでも元気ようとして、微笑みを浮かべて……。

イラスト:チョモランくん
▲しかし塔は火の海でした。召喚された禁呪の魔物が、全ての痕跡を消し去るかのように、周囲を焼き払っていたのです。イアラは魔法学校で学んだ《契約魔術》の攻撃魔法《水刃》を放ちますが、禁呪の魔物には打ち消されるように、まるで通用しません。

イラスト:ゆきまんまんさん
▲そこにエリューシスが現れます。深い憂いを、イアラと同じ色の瞳に浮かべて。イアラは事情を質しますが、姉は答えません。ヴォルドは「心を喰らう禁呪と、戦っておる」と看破します。イアラは師に姉を救う方法を質します。ヴォルドは《クロム・ゲート》と《ルーン・ペアレス》を開放する、“鍵の言葉”をイアラに伝え「周囲の全てから力を奪う、あの魔物を打ち倒せるなら、禁呪の支配力も落ちることじゃろう。じゃが、開放された魔力をそなたが扱い切れるかは、わしにも見えぬ」と言います。イアラは頷き、装具の力を解放します。

イラスト:がんじゅーいくん
▲イアラは魔法剣《クロム・ゲート》で空中に魔法陣を描き、《水》の上位精霊を召喚します。今まで一度も成功したことがありませんでしたが、封魔の鎧《ルーン・ペアレス》に封じられた魔力を解放することで、召喚できると考えたのです。鎧が外れ、同時に魔力が解放されますが、《ルーン・ペアレス》を装着した時間が短いため、魔力が足りません。それを救ったのは、師・ヴォルドの最後の魔力でした。

イラスト:有賀ちなつさん
▲イアラは再び、召喚の呪文を歌い上げます。「我、黒金の鍵にて、四大満ちる地への扉を開かん! 汝、移ろいしものよ、契約者たる我に応じ、その姿を現せ!!」 今度こそ召喚は成功します。しかし、度を超えて。騎士のような姿の上位精霊は《精霊王》を招き寄せ、その膨大な魔力が禁呪の魔物を「消し」ます。塔は粉々に破壊されてしまいます。魔物が倒れ、自我を取り戻したエリューシスは、危険を回避するために移動魔法で姿を消します。

イラスト:七荻東さん
▲深手を負いつつも、大魔法を用いたヴォルドは力尽きます。ヴォルドは最後に「《大砂海》に、禁呪を探査できる《風歌の賢者》フレオールがおる。教えを請え」と伝え、亡くなりました。悲しみの中で師を弔ったイアラは、旅立ちを決意します。なぜ姉が禁呪を奪ったのかを知り、そして止めるために。

イラスト:揚ちゃんくん
▲イアラに呼び出された《水》の《精霊王》は、ヴォルドの弔いが終わるまで見守っていました。そしてイアラに「そなたが持つ魔力は、不思議なことに、王たる我を呼び寄せた。そなたには世界を揺るがす何かがある。しかし、我がこの世界に身を起き続けることもまた、世界のバランスを揺るがすことだ。故に、我が《幻身》を傍らに置き、そなたの役割を見極めん」と言い、小さな妖精のような姿を取り、イアラの旅に同行したのでした。

◆月刊GAMEJAPAN 2007年2月号掲載/『ファントムサウザント』第2回ストーリー

 イラスト:taekoさん
▲師であり、育ての親だった《深緑の賢者》ヴォルドを失った王女イアラ(左)。イアラはヴォルドを襲撃し、禁呪を奪った双子の姉・エリューシス(右)を追って旅に出ました。イアラは思います。なぜ姉があのようなことをしたのかを。
 8歳まで《精霊樹》を刳り抜いた家で共に暮らした姉は、優しく責任感の強い性格でした。魔術の資質を表す星型の痣が認められて、魔法学校に特待生として引き取られたあとも、会う度に気に掛けてくれたのです。

イラスト:れすきゅーさん
▲イアラは師から委ねられた鍵の魔法剣・《クロム・ゲート》の精霊ロダの導きにより、禁呪の行方を探索できるという《風歌の賢者》フレオールの元へと急ぎます。《風歌の賢者》は《大砂海》に建つ、《音叉の塔》に住んでいるというのです。
 砂漠の旅の準備のため、イアラは《砂塵都市》ウルスに立ち寄ります。

イラスト:龍騎士くん
▲ウルスでは人々が騒然としていました。「もっとも実力のある貴族の魔術師を王にする」という《魔法王の布告》により、魔法貴族たちの私闘が公然と行われ、さらに時を置かずに町の命綱である水が枯れてきたのです。ウルスは以前にも水が枯れる事件があり、都を捨てたことがあります。人々の不安な顔を見て、イアラは事件の調査への協力を申し出ようとします。剣の精霊ロダは止めました。「この騒動はそなたには関わりなきことです。そして、王女だと知れたなら、つけ狙われる危険もあります。それは危険な正義感ではありますまいか」と。
 イアラは答えます。「そうですね。でも、わたしが今日まで飢えることもなく、生きてこられたのは、わたしの師をはじめとした、多くの“私によくする必要がない”人たちがよくしてくれたからです。わたしの師は言いました。『受けた善意を直接返せないなら、その分他の人によくしなさい』と。師はもういないけど……大切な、言葉なの」。
 ロダは「主たるそなたの決断を承知。我はそなたの生存確率を上げるのみです」と言い、沈黙します。

イラスト:大隅 達矢くん
▲そのやり取りを、偶然聞いてしまった人がいました。イアラの魔法学校での同級生・ハインです。
 彼は王都ウィールウィンドにある魔法学校本校から、ウルスの分校に課外授業を受けに来たのですが、《風精》の使い手であったがゆえに聞こえてしまったのです。
 元より突然いなくなったこの同級生のことを、ハインは気にかけていました。内心の動揺を抑えつつ、ハインは同級生たちを、別の道に誘導します。生徒の中にはイアラをつけ狙いかねない貴族の門弟もいるからです。

 それには気付かず、イアラは師に学んだ探査魔法を使います。すると強い魔力の流れが、放棄したはずの廃都から来ていることが伝わってきました。廃都には魔物が出没する、と恐れる人々に、イアラは「わたしが廃都まで様子を見てきますから」と語りかけます。魔法の力を持たない人々は、不安と申し訳なさが入り交じった表情でイアラを見ました。
 群衆の一人である老婆は言います。「今回のことは魔法使いでなければ、どうしようもないさね。でも、あたしゃ悔しいよ。あんたみたいな子供が行くという時に、何もできずにいるなんてさ。……申し訳ないねぇ」と。

 イアラは微笑み、言います。
「気に病まないでください。人にはそれぞれ役割があると思います。わたしは魔法を使えます。でも、おばあさんのように、美味しいパンを焼いたり、絹織物をうまく織ったりするのは苦手です。だから、わたしにやらせてください」

 一方、ハインは同級生たちを分校まで送り届けると、そっと学校を抜け出します。
 そこに声をかけたのは、級友の少女・リアムでした。
 「やめなよ。死ぬよ」
 「……聞いていたのか。でも、見捨てるわけにはいかない」
 振り向かずに、ハインは答えました。リアムは追いかけて、ハインの目を見ながら口をとがらせます。
「町の人の話を聞いてなかったの? 廃都には魔物がたっくさんいるんだよ〜」
 ハインは答えます。決意した表情で。
「この町の大人は! 僕らより強い魔力を持っているのに、王になる我欲ばかりだ!! なんのために、学んでいる? 僕は、こんな時の……ためだ!」
「人が心配しているのに、この分からず屋! わかった。行きなさい。分からず屋に費やす時間はないもの。私には私のやることがあるから」
 リアムはそう言い、走り去ります。

イラスト:kazzくん
▲昼でも湧いてくる魔物を撃退しながら、魔力の流れを追い、イアラは廃都の中心部までたどり着きました。魔法で封じられた扉を開くと、今までよりも数段強力な魔物が解き放たれたように、扉からあふれ出します。想像以上の魔物の速さに、呪文が間に合わないと判断したイアラは、《ルーン・ペアレス》で攻撃を受けつつ、そのままはじき飛ばされました。それにより間合いを空けたものの、数多く湧き出た魔物に絶望感を覚えます。

 「一刻、間合いを取れたなら」「我を呼び出せるが」。精霊ロダと、《水の精霊王》の《幻身》が口をそろえます。しかし、魔物たちはじりじりと迫り、その隙がありません。

 そこに割って入ったのがハインでした。封印の手袋を外し、《火》と《風》の魔力を籠手に宿しながら格闘術で魔物を叩き伏せます。
「よかった。間に合って」
「ハイン!? なんで? どうして、ここに」
 王女の問いに少年は応えます。
「君を町で見た。君の決意を聞いた。君を、助けにきた」
「どうして? 危ないよ」
 心配した声が、王女の返答でした。
「君が命を狙われている王女でも、それが友達を助けない理由になるの? 話はあと! 呪文!!」
「うん」
 イアラは《クロム・ゲート》で召還の魔法陣を描きます。自然に涙があふれてきて、魔法陣がゆがんで見えました。何もしない貴族たちへの悔しさで、恐怖を抑えていたものの、孤独で不安でした。
 だから、ハインの助力はとてもありがたく、嬉しかったのです。

 イアラが呼び出した中位精霊により、魔物は一掃されました。王女は一度振り向いて涙を隠し、そして助けてくれた少年に言います。
「助けてくれてありがとう。でも……大丈夫だよ」
「大丈夫なものか! 危なかったじゃないか」
「心配かけてごめんね。だけど、これはわたしがしなければいけないことだから」
「それは、君が王女だから?」
 イアラは頷きます。
「わたし……わからないの。なんで父様は、貴族たちを争わせるの? 町の人が困っていても、何もしないの? って」
「だから、自分が何とかしようって、思ったんだね」
 ハインは尋ねました。穏やかに、答えを急がせずに。
「うん。わたしの周りの人たちは、わたしや姉さんによくしてくれたわ。何もしていないわたしたちを、王女として立ててもくれた。そんな人たちに何もしないなんて……嫌なの」
 少女は少し目を伏せました。過去を思い出して。
 少年はかけられた言葉をかみしめながら、精一杯考えて、そして顔を上げました。
「イアラ……。父さんが言ってた。人は、人のやることを見て、ついてくるんだって。王女だから、とか貴族だから、じゃない。僕は、君が人のために遺跡に行くというから、追いかけてきたんだ」
「ハイン……」
「君が人に受けた善意のために、何かをするというなら、僕は君がしようとしている善意のために、何かをしたいと思う。それが『助け合うことの大切さ』じゃないかな?」
 イアラははっとして、目を見開きました。自分の善意が、友達を巻き込み、危険に追いやったと思ったからです。
「わたしが動いたから、あなたを巻き込んだ?」
 ハインはしばらく黙っていました。イアラに贖罪をして欲しいわけではなかったから。
「そうだけど、違うよ。人は他人がしたから何かをするんじゃない。人がきっかけでも、どう動くかを決めたのは自分なんだ。君を助けたいと思うのは、僕自身の責任であり、意志だ。君の手伝いをさせてくれないか? 一人より二人のほうが、うまく行くと思うよ」
 イアラの目に涙があふれます。言葉にならない思いが、涙という形となって、こぼれおちたのです。イアラはこくり、とうなずき、やっとの思いで「ありがとう」と言いました。

イラスト:TUKAMIくん
▲二人は、地下墓地を進みます。探知魔法が感知したのは、魔法王国建国前に存在した旧帝国の玄室でした。魔法の鍵を開き、二人は玄室に入ります。
 不思議な光を放つその壁には一面に壁画が描かれ、魔法文字が刻まれ、そして、文字は不規則に点滅をしています。部屋の中央には、旧帝国の紋章を抱いた巨像が立っていました。巨像から落ちる影は伸び、伸びた影が魔物として具現化していきます。
 影は魔物になるだけではありませんでした。複数の人の姿を取り、それは相争っていました。イアラは気づきます。点滅する文字は、影たちの会話であることに。
 その会話は、ウルスの人々の会話でした。相争っているのは魔法貴族たち。全てを見透かしたような、貴族の邸宅を描いた壁画の前で、影たちの宮廷劇が描かれていきます。

「おやめください。ウルスの貴族は、代々祭祀を行うべき役目があるはず。それを投げ出して、なぜ互いに争うのです」
「祭祀を絶やし、呪いがあるなら、また町を代えればよい。かの墓所に眠る秘宝は、私が魔法王となるために必要な力なのだ。そもそも、今の巫女など偽りの存在よ。祭祀などに意味はない。わかったなら、従え! それとも死を選ぶか?」

 巨像は腕を組み、移りゆく壁画をじっと見ていました。そして、イアラたちを見つけると「そなたらも墓所を荒らす者か! 偽りの巫女を抱き、祭祀を汚す者に災いを!」と宣言し、動き出します。
 イアラが「何か事情があるのでしょう? やめて!」と言いましたが、影たちは耳を貸さず、無数の魔物に変化します。
「イアラ、危ない!」
 危機を感じたハインがイアラを腰抱きにし、跳躍します。イアラがいた位置には、巨像の拳が振り下ろされました。
「何か事情があるのかもしれない。でも生き残らないと!」
 ハインの言葉に、イアラは頷きます。ここで逡巡すれば、級友の命が危ないことがわかったからです。魔物を生み出す巨像に、ハインが魔法の籠手で一撃を加えますが、魔力が中和されるように、かき消されます。
「魔力を……打ち消した?」
「なら、この鎧の魔力を解放すれば……」
 イアラが封魔の鎧《ルーン・ペアレス》を解き放とうとしたその時、事態を見守っていた《水》の《精霊王》が言いました。
「やめよ。いかに我が力でも、かの旧帝国の施した千年の楯は破れぬ」
「そんな……どうしたら!」
 生み出される魔物を撃退しつつ、イアラは問います。《精霊王》は言います。
「そなたの友人が、そなたに示した言。真実かどうか問わねばならぬ」
 小さな妖精のような姿をした生物の、ただならぬ気配を察し、ハインは言います。
「僕なら大丈夫です。何をすれば?」
「そなたの身に、我が力を降ろせ。受け入れられたなら、かの巨像を打ち破れよう」
 イアラは首を横に振ります。一度呼び出した彼女は《精霊王》の力がいかに大きなものか、知っているからです。
「守りたいんです! 力をッ」
「心を……空にせよ。主よ、そなたは自分の行いをやり遂げねばならぬ。そなたの姉のためにも、ここで死ぬことは許されぬ」
 イアラは唇を噛み、そして《ルーン・ペアレス》を解放します。閃光とともに身にまとう鎧が外れ、留められた膨大な魔力が解放されます。

「我、黒金の鍵にて、四大満ちる地への扉を開かん! 汝、移ろいしものよ、契約者たる我に応じ、その姿を現せ!!」

 召還の呪文が歌いあげられ、《クロム・ゲート》が空中に青い魔法陣を描きました。開かれた《精霊界》との《門》から膨大な魔力が放出され、《精霊王》が本来の姿を取り戻していきます。魔力の余波は影たちを消し飛ばします。
 そして長身の人型に戻った王は、ハインに吸い込まれます。恐ろしい魔力により、五体が引き裂かれそうな衝撃が、少年の体内を走りました。
 イアラは守りたいという思いを強く持ち、祈りました。二人の守りたいが一致したとき、ハインの目が開きます。青い光をまとう風になり、ハインは巨像の懐に飛び込みました。
 胸にある旧帝国の紋章が打ち砕かれたとき、巨像は膝をつきます。崩れた巨像の中からは、一人の少女が崩れ落ちました。二人は急ぎ駆け寄ります。
 不死者の気配を持つ少女は、イアラをじっと見て言いました。
「巫女さま? ああ、わたしは守れませんでした。お許しください」
「巫女さまって……貴女はいったい」
 イアラは驚き、少女を介抱しようとして、視線が凍り付きます。幼き日に自分の肩口にあり、そしてある日から、双子の姉に移った星形の痣が目に入ったのです。
 謝りながら、少女は次第に崩れ落ちていきます。痣が崩れ去るとき、イアラはなぜか血が逆流するような衝撃を受けました。そして、なぜか確信します。
 この少女は、きっと自分に関わりのある血筋だったということを。

イラスト:ポナパルドくん
▲《ルーン・ペアレス》がイアラに戻り、少女が崩れ去ると同時に、墓地が鳴動を始めます。壁面の輝く文字は光を失い、影たちは悲鳴を上げて四散していきました。崩れ出す墓地を見て、ハインがイアラの手を引きます。イアラは後ろ髪を引かれる思いで、墓地を後にしました。壁面の魔法文字、そして壁画。巫女の話。調べることができたなら、多くのことがわかったであろうことが、瓦礫の中に埋もれていきました。
 二人は何とか地下墓地を脱出しました。しかし、旧都の魔物たちまでは消え失せていませんでした。魔力をほとんど使い果たした二人は危機に陥ります。
 そこに現れたのは、イアラの姉・エリューシスでした。エリューシスは消失した星形の痣に導かれ、この地に現れたのです。そして、そこにイアラたちがいることを見て、顔色を失います。一瞬、逡巡したのち、イアラを助けようとしたエリューシスでしたが、そこで遠くから騎馬の一団が迫っていることを見つけます。
「あの旗印は……オルサード家!? 特務騎士エーデルか。今、禁呪を渡すことはできない」
 エリューシスはその場を立ち去り、そして騎馬の一団が魔物との戦いに駆けつけます。現れたのは、禁呪探索の命を受け、この地に着任した特務騎士・エーデルの小隊でした。女騎士・セリスの放った弓が、ハインと格闘していた魔物のみを居抜きます。
 そして半身を遺失技術で改造された騎士ガルドが、人のそれを上回る跳躍で、イアラを襲う魔物を切り倒しました。駆け抜ける白馬から降り立った部隊長・エーデルの馬には、イアラたちの級友・リアムが乗っていました。
「王女殿下とお見受けします。私は特務騎士エーデル・オルサード。この者たちは私の部下です」
「なんとか、間に合ったみたいね。私に感謝なさい?」
 リアムが青い瞳を勝ち気に輝かせました。イアラとハインは、それに対して微笑みます。
 疲労困憊な二人を見て取り、エーデルたちが馬を提供しました。疲れ果てた二人は、馬上の揺れが心地よく、いつしか眠ってしまいました。

◆月刊GAMEJAPAN 2007年3月号掲載/『ファントムサウザント』第3回ストーリー

 目が覚めたとき、イアラはウルスの宿屋にいました。装具が部屋の片隅に置かれているのを見ると、イアラはほっとしました。そして、置き手紙を書きます。

イラスト:キタオカミツルくん
▲手紙を書き終わったイアラは装具を身につけると、そっと窓を開けて出て行こうとします。
「よいのですか? 声もかけずに」
 剣の精霊ロダが、イアラに語りかけます。
「ええ。これ以上、ハインたちに迷惑はかけられません。それに、わたしが王女であることが、町の人たちにも伝わってしまったようですから」
 イアラは置き手紙を書き、宿代となる路銀を置きました。そして、そっと宿を抜け出します。遠くでは、水がでたことを喜ぶ人々の声が聞こえました。
 イアラはそれを祝福しつつもも、消えゆく少女と星形の痣が忘れられませんでした。

イラスト:大隈達矢くん
▲町を去るイアラの頭をよぎるのは、友人たちのことでした。イアラは思い出します。廃都で自分を救ったのは、級友ハイン(左)と特務騎士エーデルの小隊。そしてエーデルたちを呼んだのが級友リアム(右)でした。イアラは《魔法王の布告》で貴族たちから命を狙われ、さらに危険な《大砂海》に住む賢者の塔を目指す身。近くに大切な人を置きたくなかったのです。


イラスト:MIEさん
▲《大砂海》はかつてこの地に君臨した《龍》がいた土地。《龍》は創造主たる《龍王》に未来のあるべき姿を示す、最強の幻獣であり、この世界の頂点に立つ存在です。その偉大な力を示すように、《龍》が死んで数百年を経ても、残された魔力は砂を七色に輝かせ、まるで海のように波がさざめいていました。イアラは進路を阻む魔物を撃退しながら、先に進みます。
「だいぶ……戦い慣れましたな」
 魔法剣《ルーン・ペアレス》に宿る、剣の精霊ロダがイアラに言います。
「わたしは勇者レーヴィンの娘でもあるのです。これくらいで弱音を吐いたり、後れを取っていたら、父様に叱られます」
 イアラは疲労の色を顔に出しながらも、返します。自分に言い聞かせるように。
「そうでしたな……。おや? 強い魔力を遠くに感じますぞ」
「不思議な……音が聞こえる」
 二人が音のする方向に振り返ると、蜃気楼が晴れ“笛”のような塔が姿を見せます。あれこそが《音叉の塔》。《風歌の賢者》フレオールが住むと言われる塔なのです。
 塔は、その性質を示すかのように、自ら笛の音のような音を奏でました。非現実的で、でも心に染み入るような音色。素晴らしい楽曲に聞き惚れながら、イアラは思います。賢者フレオールが力を貸してくれるのだろうか、あれはまるで伝説のセイレーンの歌声じゃないか、と。


イラスト:ポナハルドくん
▲塔の前で少しためらいを見せたイアラに、かわいらしい生き物のような姿を取っている水の《精霊王》が語りかけます。「ここは暑い。私が厳しい場所だ。速く先に進め」と。
 その口調を聞いて、イアラは思い出します。ある王族の言葉を。
 それは魔法学校時代のこと。在校時代に七つの大敵を討伐し、無敵と称された第一王女ルカが、卒業後初めて母校を訪れたときのことです。王女ルカは最後の討伐で、最強の幻獣・《龍》と契約を結び、その眷属を友にしたといいます。
 ある生徒が、王女ルカに「王女さまの討伐はどこまでが本当なのですか? 《龍》と契約など、あまりに現実離れしているように思えるのですが……」と失礼な質問をしました。平均的な《龍》ですら、《魔王》に匹敵する超強大な存在なのです。想像を絶することでした。
 ルカは怒らずに答えます。「残念ながら、すべて本当だ。証を立てよう。ただし、資格がなければ触れてはならないものが世にあることを、知ることになるが」と。
 生徒たちが固唾を飲んで見守る中、ルカは黄金に輝く《クロム・ゲート》で召還の魔法陣を描き、友である《幻龍》を呼び出しました。その存在感は圧倒的であり、生徒たちは凍り付いたように動けなくなります。
 しかし、その場で一人だけ動けるものがいました。エリューシスです。エリューシスは強力な魔力にプレッシャーを感じつつも「どうすれば、そこまで到達できるのですか?」と、問います。ルカは「問われたとあらば、答えよう。我が妹よ」と微笑みました。
 魔法王ガザには娘が13人。イアラとエリューシスは11・12番目の王女であり、しかも、生母の身分からまず王城に行かない立場で、ほとんど面識もないはずなのです。
 しかし王女ルカは当たり前のようにそう返し、続けました。
「好奇心を持ち、迷わず進め! 先入観ない洞察力のみが未来を招く。恐怖とは本能であり、主観だ。本能とは『自分という積み重ねた時間』がもたらす忠告であり、尊重すべきだ。だがそれを受け入れた上で、その感情に支配されないのが“自意識のコントロール”。つまり主観の制御なのだ。物事を主観により決めつけてかかれば、現実を歪める。それでは生き残れない。成長は生き残ることで初めて実現する。生きろ!」と。


イラスト:TUKAMIくん
▲意を決し、イアラは《音叉の塔》の中に入ります。大きな扉の前に立つと、独りでに扉は開きます。中は真鍮と銀の輝きに満ちた場所でした。壁には無数の伝声管。扉はバイオリンの形をしており、見える階段はピアノ型。かつて宮廷音楽家としても、その名を知られた賢者らしい内装でした。
 歌っていた妖精たちは、イアラを見ると歌をやめ、「おきゃくさまだ」「おきゃくさまだ」「けんじゃさまにおともだちがいたんだ」「いないよ〜」とお喋りを始めます。イアラは不安な思いにかられつつも、妖精たちに話しかけます。
「《風歌の賢者》フレオール様の塔でしょうか。わたしはラーナフェルト王国の第十二王女で、イアラ・ラーナフェルトと申します」
 それほど大きな声を出したつもりはなかったのですが、そこは音響に優れており、声が響き渡ります。イアラが驚いていると、伝声管の一つが開き、不機嫌な若い男の声がしました。「賢者とは、好きで引きこもる者を言う。用があればあがってきたまえ」と。
 妖精たちは口をそろえていいます。「けんじゃさまは、にんげんぎらいでひきこもりなんだよ〜」「さいじょうかいにいるけど、いくのたいへんだよ〜」と。


イラスト:龍騎士くん
▲妖精たちの話を聞いたイアラは、賢者の住むという最上階を目指します。何気なくピアノの階段を登ったイアラは突然鍵盤が平らとなり、階下に落とされます。
 すると、近くの伝声管の一つが開き「どうしたのかね、王女イアラ。淑女はもっと優雅に振る舞わなくては。おっと、お茶の時間だ」と声がして、閉じます。
 《風歌の賢者》の美意識を形にした塔は、やはり一筋縄ではいかない塔だったのです。

イラスト:れすきゅーさん
▲さすがにむっときたイアラでしたが、ここで怒っては賢者の思うツボと思い、室内を観察します。心を落ち着けて、ルカの言葉を思い出しました。「先入観ない洞察!」
 すると、壁面の装飾に譜面が隠されていることに気づきます。イアラは譜面を解読し、そこに書かれた《精霊賛歌》を練習します。最初は一人で練習していましたが、真摯なイアラの様子を見て、妖精たちが集まってきました。「ひめさまたのしそう〜」
 イアラは頷きつつ、答えます。「うん、楽しいよ。わたし、歌うの大好きだもの。町でもたくさん歌っていたのよ」。そう言って、流行の歌を披露すると、妖精たちは手拍子してくれました。「わぁ〜へんなうた〜」「きれいなこえ〜」と。
 フロアを探すと一つのバイオリンケースが飾られていました。それを見たイアラは、それが楽聖オルエッタが使ったもののレプリカであることに気づきます。
「ちょっと、借りますね」
 バイオリンを持ち出したイアラは、その形状と合致する扉の前に立ちます。楽聖オルエッタは多くの楽曲を残しましたが、賢者の性格から考えて普通の曲であるはずがないと考え、あえて未完の楽曲である《始まりの交声曲》を演奏することにしました。
 そして、弟子が作ったと言われる部分の直前で止めます。すると、扉は開いていきます。  妖精たちが「ひめさますごーい」「あれいじょうえんそうするとね、しんばるばかりのへやにおちるんだよ〜」と口々に言います。イアラはほっとしつつ、部屋に入りました。
 中は大きな書斎のある客人用の部屋でした。台所など、生活に必要な設備もあります。 イアラは腰を据えて本を読み、壁面の《精霊賛歌》を勉強しました。
 

イラスト:斉藤穣くん
▲イアラは賢者の意図を見抜きました。ピアノの階段を譜面通り踏み、バイオリンの扉は魔法で弦を引く。楽曲を弾いて進めば、仕掛けは働きません。楽曲を奏でつつイアラは進みます。ドラムの床を踏み、跳躍したイアラは空中で《ルーン・ペアレス》を外し、魔力を解放します。解放された精霊たちが、イアラと一緒に《精霊賛歌》のクライマックスを合唱しました。妖精たちも含めた大合唱が、塔内に響き渡ります。
 楽曲の終了と共に、最上階の扉が開き、複雑な表情をした賢者が拍手しながら現れました。「芸術を解するなら、話を聞かぬでもない」と。
 そう、賢者は優れた芸術を拒否できない体だったのです。

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